「日本の銀行口座からタイへ送金したら、タイで税金がかかるの?」
タイで暮らしている日本人の間で、ここ数年かなり増えている質問です。
背景にあるのが、2024年から運用が変わった海外所得の課税ルールです。
ただし、最初に知っておきたいのは、
「日本からタイへ送金した=その送金額に税金がかかる」わけではありません。
重要なのは、
そのお金が何のお金なのか、いつ得た所得なのか、その年にタイの税務居住者だったのか
という点です。
2026年8月11日には、タイ内閣がASEAN Centre for Active Ageing and Innovation(ACAI)の外国人職員を対象とした所得税免除案を原則承認しました。これは一般の外国人を対象とした制度ではありませんが、在タイ外国人の税務について改めて注目するきっかけとなっています。
まず確認——あなたはタイの「税務居住者」?
タイでは、暦年の1月1日から12月31日までの間に、合計180日以上タイに滞在した人は、原則としてタイの税務居住者として扱われます。
ここでいう180日は連続している必要はありません。
たとえば、
1月から4月までタイに滞在し、一度日本へ帰国。その後7月から10月まで再びタイに滞在した場合でも、年間の合計日数で判断されます。
そして税務居住者となると、タイ国内で得た所得だけでなく、一定の条件を満たす国外源泉所得についてもタイで課税対象となる可能性があります。
2024年から何が変わった?
タイ歳入局は2023年9月、命令 Por.161/2566 を発行し、さらにPor.162/2566で適用範囲を明確にしました。
以前は、国外で得た所得について、
「所得を得た年と同じ年にタイへ持ち込まなければ課税されない」
という運用が長く行われていました。
そのため、
「今年海外で稼いだお金は、翌年になってからタイへ送ればいい」
という方法が広く使われていました。
しかし2024年以降、この考え方は原則として使えなくなりました。
現在の歳入局の解釈では、
2024年1月1日以降に生じた国外源泉所得について、その所得を得た年にタイの税務居住者であり、その所得を後の年にタイへ持ち込んだ場合でも、タイで課税対象となる可能性があります。
つまり、
「翌年まで海外口座に置いておけば自動的に非課税」
とは考えない方がよいということです。
2023年以前の貯蓄はどうなる?
ここは非常に重要です。
歳入局命令 Por.162/2566では、2024年1月1日より前に生じた所得については、新しい取り扱いを適用しないと明記されています。
たとえば、
2020年から2023年までに貯めた給与や事業所得などを2026年になってタイへ送金した場合、新しい海外所得課税ルールの対象には原則として入りません。
そのため長期在住者の場合、
「2023年以前から持っていた資金」と「2024年以降に得た所得」を説明できるようにしておく
ことが大切です。
銀行の残高証明、取引履歴、給与明細などを保存しておくと、資金の出どころを説明しやすくなります。
注意:「日本から送金したお金=海外所得」ではない
ここは特に誤解されやすいポイントです。
税務上重要なのは、
どこの銀行から送金したかではなく、何によって得た所得なのか
です。
たとえば、日本企業から日本の銀行口座へ給与を受け取っていたとしても、実際にはタイに駐在し、タイ国内で仕事をしている場合があります。
この場合、
「日本口座でもらっているから日本の所得」
とは限りません。
タイ国内で行った労務に対する給与については、タイ源泉所得として課税対象になる可能性があります。日タイ租税条約でも、給与所得については実際にどこで勤務したかが重要な判断材料になります。
ケース① 日本企業の駐在員
日本企業に所属しながらタイで勤務している場合、給与が日本の銀行口座に振り込まれていても、それだけで「国外所得」になるわけではありません。
タイで行った勤務に対応する給与については、タイで課税される可能性があります。
一方で、日本とタイの間には租税条約があります。
そのため、どちらの国に課税権があるのか、日本ですでに支払った税金をどのように調整するのかについては、日タイ租税条約と両国の国内法を確認する必要があります。
「日本で税金を払ったから、タイでは何もしなくていい」と単純には判断しない方が安全です。
ケース② 日本の年金を受け取っている
タイでリタイア生活を送っている日本人にとって、年金も注意したい項目です。
年金については、公的年金か私的年金か、どの制度から支払われているかなどによって租税条約上の扱いが異なる可能性があります。
特に政府・地方公共団体から支払われる年金については、日タイ租税条約に個別の規定があります。
そのため、
「日本の年金ならすべてタイで非課税」
あるいは
「タイへ送った年金はすべてタイで課税」
と一律に考えないことが重要です。
ケース③ フリーランス・デジタルノマド
タイに長期間滞在し、日本や海外の企業から仕事を受けている人も増えています。
ここでも、
海外クライアントからもらった報酬=国外源泉所得
とは限りません。
タイに滞在し、タイ国内で実際に仕事を行っている場合、その仕事による所得についてタイ側に課税権が生じる可能性があります。
DTV(Destination Thailand Visa)を持っているからといって、それだけで所得税が免除されると考えるのも避けた方がよいでしょう。
ビザの滞在資格と税務上の取り扱いは別の問題として考える必要があります。
ケース④ LTRビザを持っている
LTR(Long-Term Resident)ビザについては、一般の外国人とは異なる税制優遇があります。
BOIの案内では、
Wealthy Global Citizens Wealthy Pensioners Work-from-Thailand Professionals
について、一定の国外所得に対する税務上の優遇が設けられています。
一方、Highly Skilled Professionalsについては、タイでの一定の雇用所得に17%の個人所得税率を適用する仕組みが中心です。
LTR保持者の場合は、自分がどのカテゴリーで認定されているのかを確認することが重要です。
ケース⑤ タイの会社から給与をもらっている
タイで働き、タイ企業から給与を受け取っている場合は、基本的に従来どおりタイの所得税の対象です。
今回話題になっている「海外所得をタイへ持ち込む場合」のルールとは分けて考えた方が分かりやすいでしょう。
「翌年までに送金すれば免税」という話はどうなった?
2025年以降、
「国外所得を、所得を得た年または翌年までにタイへ持ち込めば所得税を免除する」
という新制度案が報道されています。
具体的には、
2025年に得た国外所得
→ 2025年または2026年にタイへ持ち込む
→ 免税
という仕組みです。
しかし、2026年8月12日時点では、この制度が一般向けルールとして正式発効したことをタイ歳入局の法令情報から確認できません。
専門家の2026年の解説でも、制度は依然として正式な法制化待ちとされています。
したがって現時点では、
「翌年までに送金すれば必ず非課税」
という前提で資金移動をするのは避けた方が安全です。
今後、歳入局や官報から正式な王令・省令が発表された場合には、このルールが大きく変わる可能性があります。
日タイ租税条約があるから「二重課税されない」?
日本とタイの間には租税条約があります。
ただし、
「租税条約がある=自動的に二重課税がなくなる」
と考えるのも少し危険です。
所得の種類によって、
日本だけが課税できる
タイだけが課税できる
両国に一定の課税権がある
など、扱いが異なります。
外国税額控除などを利用する場合にも、証明書類や申告が必要になることがあります。
したがって金額が大きい場合は、日タイ双方の税務に詳しい専門家へ確認するのが確実です。日タイ租税条約自体もタイ歳入局が公開しています。
確定申告はいつ?
タイの個人所得税は暦年単位で計算されます。
たとえば2026年1月〜12月の所得については、原則として2027年に年次申告を行います。
歳入局ではe-Filingによるオンライン申告も提供されています。
国外所得がある場合には、送金記録だけでなく、
所得を得た年
その年のタイ滞在日数
所得の種類
海外で支払った税金
タイへ持ち込んだ時期
などを整理しておくと申告時に確認しやすくなります。
「180日未満なら税金はかからない」は正しい?
「年間180日未満ならタイの税務居住者にならない」という考え方は、国外源泉所得を考えるうえでは重要です。
ただし、
180日未満ならタイで一切税金がかからない、という意味ではありません。
タイ国内で働いて得た給与や、タイ国内で行った事業による所得などについては、非居住者であってもタイで課税対象になる場合があります。
つまり、
「税務居住者かどうか」と「タイ源泉所得があるかどうか」は別々に確認する必要があります。
在タイ日本人が今確認しておきたいこと
2026年時点で特に確認しておきたいのは、次の4点です。
- 今年タイに180日以上滞在する予定か
- 日本や海外から受け取っているお金は、どこで行った仕事・投資などから生じた所得なのか
- 2024年以降に得た国外所得をタイへ持ち込んでいるか
- 2023年以前から持っていた貯蓄を証明できる資料が残っているか
そして、日タイ双方で所得がある人は、日タイ租税条約がどのように適用されるのかも確認しておきたいところです。
特に給与、事業所得、年金、配当、株式売却益など複数種類の所得がある場合は、単純に「日本から送金した金額」だけを見ても税額は判断できません。
まとめ
今回の記事で最も重要なのは、
「タイは日本からの送金そのものに税金をかけているわけではない」
という点です。
問題になるのは、その送金の原資が課税対象となる所得なのかです。
2024年以降、国外所得をめぐるタイの税務ルールは以前より厳しくなりました。一方で、「翌年までに送れば免税」という新しい緩和策も検討されていますが、2026年8月12日時点では正式発効を前提にしない方が安全です。
在タイ期間が長く、日本にも収入や資産がある人ほど、
「滞在日数」「所得が生じた年」「所得の発生場所」「タイへの送金時期」
を分けて記録しておくことをおすすめします。
※本記事は2026年8月12日時点で確認できるタイ歳入局、日タイ租税条約、BOI等の公開情報をもとに一般的な制度を整理したもので、個別の税務判断を行うものではありません。